そこに入ると今でも分娩室はそのままで、過去の遺産が保存されたように、消毒したままの器械類やガーゼなども器械棚の中に残されている。新生児室には新生児用コットが整然と並び、壁には優しいディスプレイが架けられている。もう誰も訪れることなど無いはずなのに、そこに居るとあの頃の必死さを伴った喧騒と新生児の息遣いや声が聞こえてきそうだ。そして今にでもお産も帝王切開術だってできる様な錯覚にとらわれる。
当院による分娩の取り扱いが終了してから18年（2025年現在）が経過した。全てがあの時のままのナースステーションの棚に3冊の声のファイルが残されている。この時までに生まれた子供たちは、もうお母さんやお父さんになって、この声のファイルを残していってくださった方々の中にはお孫さんのお相手をして方もいるのでしょう。
ここに来るとなぜかこの温かき日々を懐かしく思い出すのです。
＊文章中、個人名や日時などの情報は個人情報保護の視点からも文章内容の意味が変化しないと考えられる範囲で文章の変更あるいは削除させていただきました。ファイルのご紹介は1、2通ずつとなりますが、年月などは順不同となります。
声のファイル4、
立ち合い分娩を今回経験して出産に対する考えが変わったような気がします。どう変わったかと言うと、今までは出産は大変なんだろうなーとか、痛いんだろうなーとか、ただ漠然と思うだけだったが実際に立ち会ってみると妻一人にこんな辛い思いをさせて申し訳ない気持ちで一杯でした。
段々と陣痛の回数も多くなり、苦しみ方も徐々に増していくのが目に見えて分かりました。その時の自分は、ただただ腰や脚をさすって「がんばれ、がんばれ」と言うこと位しか出来なかった。けっこう辛かったです。 特にうちの妻は体が小さくて自然分娩できるかどうか分からないと聞いていたので不安でした。
しかし、妻の頑張りもあって（自分も？）元気でかわいい赤ちゃんが生まれ、母子ともに健康で本当に良かったです。後で妻に聞いたんですが「陣痛の時に側にいてくれてすごく安心した」と言われ、何もしていないようで実は役に立っていたんだなと思った。
やはり妊娠も出産も夫婦の共同作業だと言うことを感じました。この経験を糧にして、これから先いろいろな事があると思いますが、家族一丸となっていく自信がついたような気がします。
あと、陣痛で苦しんでいる妻のところに何度も顔を出してくれた看護婦さんにはとても感謝しています。
本当に貴重な経験をしました。
追伸、2人目も出来れば立ち合い分娩をやりたいと思います。その時はよろしくお願いいたします。あと乱筆乱文で大変申し訳ないですが、これが私の率直な感想です。
声のファイル5、
この度は、先生はじめ看護婦さんの方々には大変お世話になり、本当にありがとうございました。
まず、最初に立ち会い分娩を経験して想像以上に苦しがる妻を見て驚きました。元々自分の妻は少しおとなしすぎるところもあり、あまり表に感情を出す方では無いので妻の分娩時の声を出し苦しむ姿は見るに辛いものがありました。 分娩の途中、こんなに苦しむのなら子供はこの子１人でもいいなと思いました。
しかし、赤ちゃんが生まれ、看護婦さんが妻の元へ赤ちゃんを連れて来てくれた時の妻の声にならない喜びの声は、数日たった今も分娩を思い出せばその時のその声を思い出します。
分娩を立ち会う前は、生まれた赤ちゃんを見て感動し涙ぐむ自分を想像しましたが、実際は赤ちゃんよりもこんなに苦しい思いまでして自分の子を生んでくれた妻への感謝が大半でした。妻をこれからも今まで以上に大事にしてあげたい。妻を悲しませる事はしないようにしたいと思いました。
あと、立ち合い分娩を経験して、もっと自分が妻に声をかけてあげられなかったことに悔いが残り反省しています。妻がこんなに頑張っているのに自分は少し恥ずかしさがあり、しっかりと元気づけられなかったように思います。
でも、その分これから二人で子供を育てていく時、この時の妻への気持ちを忘れず、妻と子供を幸せにしてあげられる様頑張って行きたいと思います。