寄り道は時々

浮世絵を訪ねて(8)

暑い日曜日の昼、小夜の中山、夢灯の館長のお話を聞きに訪ねたくなりました。

日曜日を待って、というのも夢灯美術館は土曜日、日曜日が開館日です。まだまだ浮世絵収集中という館長先生の浮世絵にかける情熱はお話しているだけでこちらも熱くなるほどです。

本日の展示は、北斎が1804年頃に書いた青色が表現できない時代の東海道53次、ここで教えていただいたのは、浮世絵と言うより日本の絵画はこの頃まで決められた形の雲を随所に描くことで遠近、奥行きを表現していたとのこと。この手法は、平安時代からの伝統で絵師は伝統的表現法を学んでいた結果であった。やがてこの表現法は浮世絵独特の表現法に変わっていく。それは青色が輸入され色彩表現が豊かになってからの事になるのです。

この中の北斎1804年作、金谷の絵です。この景色、どこかで見たと思いましたら諏訪原城址からの帰りに茶園を通して見た景色と同じです。遠くに富士山、真ん中に大井川が流れ、近くに東海道石畳街道の景色。

さらに、今回は彫り師について学んできました。浮世絵では、絵師、摺師と共に彫師が重要な位置を占めています。ともすれば絵師の北斎、豊国、歌麿などに関心が向きそうですが、ここはひとつ彫師に目を向けて観賞してみましょう。浮世絵の大部分は彫師のアイデアと技量によって成り立ってもいるのです。例えば着物の柄等の選択も彫師に一存されたとも言われています。

今回のコレクション展示の中では豊国画の作品を仕上げた二人の彫師、「彫巳の」、「彫竹」に注目してみます。二人とも浮世絵中に名前が印字されていますから相当の有名彫師、超絶技巧の持ち主ってことになります。髪の毛一本でも失敗したら、その版木全部が使えなくなるのですから、集中力たるや半端ないものですね。

二人の彫師は何歳から修行を始めたかは定かではありませんが、10代の頃には既に浮世画の中に彫師の名前を載せるほど有名な彫師であったことは確かです。その腕は、毛髪の彫り方にあると言っても過言ではありません。彫竹作では髪の生え際から次第にグラデーションを付けるように彫られ、髪のボリューム感を出すのに成功しています。きっと一目で「彫竹」作と分かったことでしょう。「彫巳の」の凄いところは豊国作の白須賀猫塚画の目です。ここでは「彫巳の」は瞳の虹彩まで彫り込んでいるようです。ただただ、凄いなぁと思って窓から景色を眺めながらコーヒーを頂いて、浮世絵談義です。

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