7月になったある日、由比の東海道広重美術館を訪れました。
静岡県由比と言えば東海道の難所の一つ、片側の山から直接海岸へ入り込むような土地に街道が西へ薩埵峠へと向かう。峠からの眺めは古くから富士山と海、断崖の景色が幾度となく描かれ、その絵や写真を見る機会があれば、一目で薩埵峠からの眺めだと分かる特徴的風景に出会うことが出来ます。
この由比の町は、当時の東海道を彷彿とさせる雰囲気に満ち、今でも由井正雪の生家である紺屋が染物販売などの営業を続けています。
ここに平成6年に開館した静岡市東海道広重美術館があります。もちろん開館して直ぐに訪問しているわけですから、実に30年ぶりの訪問になります。今回は諸国漫遊浮世絵の旅と題された展覧会に誘われて行ってきました。
浮世絵が浮世を表現しているものとすれば、世の中が豊かで平和な中に娯楽、遊興としての場面を書き連ねたものです。従って浮世絵には、主に役者などの人物画、日常の中の遊びに関わる場面、旅先の案内と動作、はかない物思いなどの場面が描かれて、中には日常生活の記録的要素の強いものも描かれています。さらには日本人の嗜好や生活まで及んでいるものです。しかし、この浮世絵は浮世絵と言うジャンルの中で次第に風景画などの写実性を込めた画風が描かれるようになって、いわゆる版画芸術としての領域を開拓していったことになります。このことは、よく知られたヨーロッパにおけるジャポニズムとして西洋の画家たちに大きな影響を与えることになったのです。
日本独特の浮世絵は、実は日本でしか出来なかった技術で西洋には見られません。彼らは版木になる木を待たない地域で生活していたのです。そこにある木は軟らかいか、針葉樹林で木材に油分を含むもので版木に適さなかったのです。日本で版木技術が発展したのには硬く大きなヤマザクラなどの木があったのです。
さて、展覧会の表題通りの東海道53次ですから行きたくなりますね、諸国漫遊。