「せんせい、患者さんのこと一日何人診たいの」朝から婦長が聞いてくる。
「そりゃ午前中5人、午後5人が良いな」
「そりゃないでしょう。今日だって9時からの予約枠だけで10人以上入ってますよ」
「だってさ、僕の知り合いの若先生たちにお父さんどうしてるって聞くと、大体の方が1週間に一日、二日外来やって5人くらい診ているみたいだよって言ってるぜ」
「そんなことより外来始めましょう」
なんだかんだ言っても年取ると全般的に物事が遅くなる。この間、若手の整形外科医に先生歩くのが遅くなったでしょうって言われた。そう言えばウオーキングの時にやけに抜かれるようになった。
外来診察だっておんなじだ。気になることばかり増えて先に進まないのだな。それと電子カルテって字は小さい、薄い、おまけにキーボードだぜ、早く進むわけがない。
さて、「一番の方どうぞ、今日は子宮筋腫の経過ですね。もう年齢的に閉経の時期になりましたし、このところ筋腫の大きさにも変化はないし、子宮内膜、月経になるところですね、が厚くなっていること、増殖と言いますけど、もありません。子宮筋腫は卵巣のホルモンに依存して発育するので卵巣機能が低下すれば問題が無くなっていきますよ、今は閉経になっていく過程で良いと思います。今まで子宮がん検査も子宮頸がん、体癌とも定期的に行いましたし、MRIも見ています。経過についても積極的な心配は無いですね」
産婦人科医療の歴史の一つは子宮筋腫との闘いと言っても過言ではないくらい、かつては子宮筋腫が存在するだけでも手術していた時代が長く続きました。今では画像診断機器も発達し、病態の評価がかなり正確にできるようになりました。さらに月経をコントロールしたり、子宮筋腫の発育を制御するホルモン剤の種類も増えて何とか手術を避けられるケースが増えました。その分、外来でのお付き合いが長くなりましたけど。
もうずっと以前のことですが、仲間の外科医から「お前たちは良いな、取ってしまえば終わりだから」そんなわけばかりじゃないけど、確かに一理あった。
先日のことだけれど、後輩の教授と飲んでいた。「産婦人科医ってさ、患者さんと付き合う時間が短いよね、基本産まれてしまえば 摘出してしまえば終わりって感覚でやってきたからじゃないの」「うん、確かにそう言うところがあるかもかも知れない」と教授、「やっぱり医者だからさ、一生診てあげるつもりじゃないと」僕、この年になったら言うことは言うね。
「それでさ、予約減らすのはどうしたら良いの」
「それが難しいんですよ、うちの場合予約アプリで診察予約を取ることになっていて、産婦人科、内科、小児科ってあるでしょ、それぞれに予約枠がありますから患者さんは良く分かっていて、産婦人科枠が一杯だと内科で予約入れてきたり、小児科で予約入れてきます。だから同じ時間にたくさんの方が予約するようになるんです」
「僕さ、お茶飲みながらの日向ぼっこ外来にあこがれているのよ」
「ダメです、先生に診てもらい方もいるのですから」。