2024年7月25日、一人医師医療法人会総会・講演会で、京都大学大学院教授 藤井聡 氏の講演 「日本経済の行方~地方経済はどうなるのか~」を聞いてきました。
藤井氏は、1968年(昭和43年)10月15日生まれですから、現在55才、本業は土木工学で京都大学大学院工学研究科(都市社会学)教授を務めています。国土計画、経済政策などの公共政策論、すなわち都市社会学を専門としているからでしょうか、経済学、心理学等にも詳しくマルチな才能を有して、その内容も関西系の歯切れが良いものです。
YouTubeなどでの対話も思わず引き込まれてしまう語り口で、フアンも多いでしょう。とにかく生藤井聡さんにお会いできたことは幸せでした。
さて、今回の講演ですが、YouTubeで見るのと同じ語り口の内容です。聞く方とすれば「あぁ、そうだったか」と妙に納得して、その後の飲み仲間の間での会話にも薀蓄らしく話すことができます。
先ず、実質消費支出の説明からでした。2人以上の世帯の実質消費支出は2022年1月には前年同月比プラス6.3%でしたが、2024年1月の家計調査によると、前年同月比マイナス6.3%になっています。これって物価のこともありますが、お金を使わなくなったのか、お金が無くなってきたのかってことですね。
次いでGDPのお話でした。GDPとは何なのかよく考えたことも無かったので却って新鮮でしたが、少しネットで調べたらGDPには生産面・支出面・分配面の3つの観点から見た時、それらは常に同じ金額になるという法則、すなわち三面等価の原則があるとのことです。この三面等価の原則と言うのは、その国全体で1年間に使われたお金の総額なので、藤井先生もそのように講演されていましたけど、この金額が大きければ大きいほど、多くの物や人が動き、経済活動が活発であるってことです。結局、その国で1年間に使われたお金の総量がGDPと言うことですから、日本のGDPはどうなっているでしょうかと言うお話です。
新型コロナパンデミックは世界的にも各国に大きな経済的損失を与えた筈だと思っていました。果たして新型コロナパンデミック下で各国のGDPはどうだったのでしょうか。WHOがパンデミックを宣言したのが2020年3月でした。そして日本を含めて各国が新型コロナ収束宣言して日常生活へ戻るようになったのが2022年から2023年中でした。新型コロナパンデミック下では各国とも外出が制限され、経済活動は著しく低下していたものとばかり思っていました。
そこで、グローバルノートから提供されている資料「2023年の名目GDP(IMF統計)」を見てみますと、日本は、米国、中国、ドイツに次いで4番目で次いでインド、イギリス、フランス、イタリアが続いています。そう言えば日本のGDPはドイツに抜かれたんだよって一時評判になっていました。
では、同じグローバルノートからの資料を見てみますと新型コロナパンデミック以前、パンデミック中、パンデミック収束の2023年の間で各国のGDPの伸び率が示されています。先ず、米国ですが2019年21,521,400(百万US$)、2020年21,322,925、2021年23,594,050、2022年25,744,100、2023年27,357,825と2019年からは実に5,836,425(百万US$)の増加を示しています。
中国ではどうでしょうか。2019年14,340,600(百万US$)、2020年14,862,564、2021年17,759,307、2022年17,848,540、2023年17,662,041と2019年からは実に3,321,441(百万US$)の増加を示しています。
3番手のドイツは、2019年に3,889,607(百万US$)、2020年3,884.615、2021年4,281,348、2022年4,085,681、2023年4,457,366と2019年からは567,759(百万US$)の増加を示しています。
これら上位3か国では、2020年に一時的にGDP増加に停滞が見られましたが、その後は右肩上がりにGDPの成長が認められています。
さて、日本です。日本では、2019年に5,117,995(百万US$)、2020年5,055,587、2021年5,034,621、2022年4,256,410、2023年4,212,944と2019年からは905,051(百万US$)の減少です。これは、1993年の4,536,955より低い値です。1993年生まれの方は現在31才ですから、少なくてもこの30年間家計は変わらないで来たのが実感でしょう。因みにドイツの1993年のGDPは2,072,457(百万US$)でしたから2023年4,457,366と2倍以上GDPが上がっています。
米国では、1993年に6,858,550(百万US$)のGDPが2023年27,357,825と4倍近い増加を示しています。中国は、国情も少し違って人口も多い国ですが、同じ1993年に617,433(百万US$)のGDPが2023年17,662,041と28倍以上の増加となっています。僕たちの年代では、報道などに見る中国の発展には目を見張るものがあります。
日本でこのところGDPが低下したのは、新型コロナパンデミックの為だと妙に納得するような説明がされていますが、パンデミックですから各国とも同様に罹患者が多数いたことは確かです。それに、日本では、パンデミック以前からだってずっとGDPは増加しているわけではありません。この30年間、GDPが増加するどころか減少するようでは、実感としても生活は楽になっていませんね。この新型コロナパンデミックの間でも各国はGDPを伸ばして生活の豊かさを保証して来たのに、日本ではパンデミック以前から30年間ずっと、ガマン・ガマンの生活を強いられてきたのが実感されます。これでは、生活が苦しく、家庭を築こうとか子供を持とうとかなんて気持ちになれないのは当たり前ですね。本当にどうして日本以外の国が新型コロナパンデミック下でもGDPを伸ばしてきたのか背景を知りたくなります。
そう言えば、講演の中で実質賃金が26カ月間下落しているとの話がありました。これはリーマンショック時より悪い状況でメチャクチャ景気が悪いってことですともお話しされていました。日本人の多くが景気が悪い中で生活してきてしまったので、案外慣れてしまったのかも知れません。NHKに講演に示されたのと同じような図がありましたので拝借してきました。
「現金給与の総額」前年同月比 2.1%増、と表題が付けられていますけれど、図を見ると確かに2021年からプラトーですね。
「実質賃金指数」前年同月比 0.7%減 25か月連続のマイナス、と表題が付けられています。これもマイナスが続いていますね。
また、マクロ経済学とミクロ経済学と言うお話がありました。経済学と言うとどうしても苦手意識が先に立ちますので、あまり気にすることも無かったのですが、マクロ経済だとかミクロ経済だとか初めて聞きました。そう言えば経済学界には医療経済学と言う分野があります。この辺りも今回の診療報酬改定を基に研究を進めていく必要がありそうです。
さて、マクロ経済学とはどういうものでしょう。経済と言うものは、どれだけ稼いでどれだけお金を使うってことでしょうから、一般の僕たちみたいなものは、今月は経済が悪いなぁ、なんて言ったりします。こんな話は、うちの法人だけの話ですから一企業のミクロな話で、ミクロ経済って言うんでしょう。
マクロな話で言えば、国全体の話ですから国がお金を使わなければ経済が悪くなるって話です。マクロはミクロの集合体みたいなものですから、国全体に私たちが投資できる環境を作ってもらわないとお金が動きません。マクロ経済学においての国の役割は2つで、財政政策と金融政策です。
財政政策は、政府が行う財政支出のことで社会保障や公共投資のこととされていますが、政府がお金を使うことを財政政策でと考えればいいので、財政政策が経済そのものに影響を与えることになるのですね。 金融政策は何だか馴染みのある言葉ですが、これは日銀が行う金融政策で日銀は通貨の発行権を有して市場の通貨を調整して、物価・為替の安定を図るとされています。具体的には、銀行に貸し出す利率の公定歩合の調整や、通貨の発行などがあります。
さて、僕たちが関わることになる財政政策中の社会保障ですが、2019年の日本の社会支出(対GDP比)は22.95%、日本の分は2020年分も示されていますが25.46%となっています。こんなに増加したんだぞって風にも見えますが、この日本の社会保障費(対GDP比)は果たしてそんなに高いのでしょうか。社会保障費は対GDPで算出されていますのでGDPが低ければ国民の負担感は大きくなりますね。因みに先進国と言われる国の社会支出の2019年の対GDP比はイギリスの20.13%からフランスの31.49%であり、その平均は約25%です。
このグラフからも社会支出は、各国とも高齢化を背景に増加することは否定できませんが、GDPが低いままでは社会支出に使えるお金も限られてくるでしょう。私たちが健康に過ごすために、いかにGDPの成長が大切か分かりますね。
また、財政規律の凍結なんてお話も出てました。各国はこの新型コロナ下で一時的財政規律の凍結を行い、景気の下支えを行い、所得損失の補填を行ったことをお話されていました。おそらく財政規律の凍結と言う言葉も会場にいらした聴衆の方々も初めて聞いたことでしょうが、とにかく現在さらに将来へ投資する機運が高まらなければ、消費も増えない。一時的また一部的に生活補助をしても国全体の経済的活気が無ければ、将来の希望が持てないですね。江戸が活気にあふれていた頃、江戸っ子は宵越しの金を持たない、なんて言ってました。僕らの世代でも余力が持てない時代になって来たな。
こんなことを考えた時間でした。