詩集

一月の月

今 満月は白色LEDのフロアライトみたいに明るい

空には水滴を表すようなサインも無く月明りは均一に地上にある

四つ五つの明るい星が見え その内の一つは火星

ある時 長野県塩尻市平出遺跡を訪ねた

そこでは古代人たちが平安の時代まで5000年を暮らした

竪穴に掘られた住まいは空間を遮るものがない

火が焚かれて煙が竪穴住居のかやぶきの隙間を埋めていった

隙間はヒトの身体の中にあり その空間まで入り込んでいた

永く生きるものは悪性腫瘍に呼吸を苛まされていた

呪術さえ無縁の世界の中で横たえられた体は眠りに就くほかはなかった

住居入口まで踏まれた草は、当時の往来と同じ道筋をたどる

草の上を渡る風と湿った土の匂いも遠くの山影も変わらない

冬の夜には住居がカマクラのようになって見え 雪を月が照らしていただろう

古代人が見た光景 それは今でも現代人の感性に位置付けられている

関連記事