詩集

赤坂見附某月某日

雨の中の赤坂見附は記憶の中の風景にしか見えない。

空はインクブラックで塗りつぶしたようになって、赤坂見附の明かりを吸い込んでいるようになった時間。

雨が小さな粒になって窓ガラスに無数の歪みを作っては落ちていく。

一つ一つの崩れた雨粒には小さな光が灯って流れていく。

それは、今までの一瞬一瞬のイベントがこれ以上ない細切れになって消えていくのだと思えた。

もう、ここまでの記憶をこの先も持ち続ける意味も無ければ、雨粒がビデオテープをリバースモードにするように夜空に向かって流れることのない様に、戻らなくても良いのだと教えてくれるようにも思える。

いつまでもいつまでも小さな雨粒が振ってくる。

膨大な過去を縁も境もないくらい、空からそれでも一瞬の光を灯してこぼしてくる。

赤坂見附はそうして記憶の中に薄らぎ、ただ活字でのものだけになっていく。

谷川俊太郎だろうか誰か詩人が、いずれ過去は負けて現在と未来に負けると言った。

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