石英を細かな砂状にして厚く塗りつけた緑色の表面を持つ壁が剥がれては畳の上にザラザラした石のヤスリのような面を現わしていた。
長押に掛けられた会ったこともない人物の写真。
鼠の小便があちこちにシミを作った額。
開けたらその奥から時を経た埃が隙間風とともに雪崩落ちてきそうな唐紙には古い漢詩が一面に書かれている。
一面に柾目で張られた天井が垂れ込めるように薄汚い茶色に染まっている。
その様は厳然としてこの家の歴史には近付くなと全てが拒否権を行使していると思えた。
この威圧的に歴史を押し付ける二間の空間には現代だとか未来だとかを語るにはあまりに遠い過去を持っていた。
何時からかこの過去を吞み込んだ場所に居る。
ある日古い戸棚の奥に薄っぺらな和紙を重ね紙縒りで端を綴じた様々な薬品名が墨書された葉書大のメモの綴りを見つけた。
触ればそのままホロホロと崩れてしまいそうな数枚の和紙の書付には永い歴史が籠っている。
長い時間ただ時を過ごすためだけにこの家に残されていた数枚の和紙は何時かの時に誰かが見つけるのかを息を殺して聞き入っていたのだろうか。
そして僕はこの先もこの家の変遷と老いゆく民の地をただひたすらに見続けていくのだ。