お酒を飲んだ翌日は、気持ちが沈むものです。学者はそう言った。
そんなフレーズが繰り返し巡ってくる中で、何かを明確に整理できないまま、海に出てみた。
いつか遠い記憶のなかに誰かに抱かれてこんな海辺に来たことがある。その時も今のように海霧の中で押し寄せる波より先はグレー色にモノトーンの世界があった。
その時の、幻想のように蘇る幼子の記憶、舟屋の並びや丸太コロ、人力のウインチなどが放置されたままになった浜辺が重なって見えた。
グレー一色の中で、海辺はもう何も表現するものを失った。
文明、進歩と呼ばれるモノたちがこの海との関わりを失くした。
哀れな心は、戯れにも波際に足を進めることさえ失っていた。
そして、この先の予測も得られぬままモノトーンの世界に浸り続けるのだ。