医者のぶらぶら日記

人口減少と医療

2024年11月21日、静岡県一人医師医療法人会セミナーで、あの『未来の年表』で有名な人口減少対策総合研究所理事長の河合雅司氏の講演「未来の年表~人口減少日本で起きること~」を聞いてきました。

色々と考えなければならないことを感じてきましたが、少しばかり書き記しておきます。立場上ご挨拶を申し上げる立場でもありましたから講演を聞く前に河合氏の著書などを幾つか目を通しておきました。

人口減少問題は、この国の医療産業だけでなく様々なインフラに関わって来ます。日本では医療機関の収入は国民皆保険による国の診療報酬支払によって成り立っているので、いわば国の示した値段でもって医療が行われます。これは介護を受ける方についても同様です。国民はある意味で安価で高度な医療を日本国内のどこでも受けられることになっています。だから、筆者みたいな年寄りで薬をたくさん服用しているような者でも、旅行も国内なら先ず安全なんて思ってしまうのです。

でも、それがこれからは考えを新たにしていかなければなりません。これからはあまねく平等な医療を受けられることが続くのでしょうか。

さて、医療のこれからは、地方においては人口流出が止まらないことが問題になります。出生数も減ってきている時代に人口流出が進んでいって地方はどうするのってことですが、地方に住んでいれば人口減を実感として感じることができます。これから先は、医師も含めて特殊能力を持った方たちは、地方から脱出し、更には日本から海外流出していく現象がさらに加速するでしょう。

地方の人口流出は、転出超過にも原因の一つがあります。この転出人数は、若者たちだけでなく地方の高齢化が進む中であって高齢者も都会へ転出しているのです。理由の一つに都会では高齢者も暮らしやすいインフラが整えられていることがあります。例えば地方では、自家用車を自分で運転しないと生活できないけれど、都会では若者さえ車の必要がないとさえ言っています。さらに今後の介護などのことを考えると都会に住む子供たちと同居したり、近くのマンションに居住したりするようになることがあります。

この高齢者のポピュレーションは日本全国で高齢者は2040年代まで増え続けますが2043年をピークに減少するとされています。もう15年後のことですね。

医療の世界に関しては、医療を要する疾患の多くは加齢により増加することは何れの診療科でも明らかです。従って高齢者が減少すればその分だけ医療ニーズが無くなって行くと言うことです。そのため、しばらくは高齢者医療へ対応が要求されますが、その後の高齢者減少時代は患者不足を生じることになります。

再度確認しなければならないことは、高齢者はいろんな病気を抱えていますから医療機関に受診する機会が多くなりますね。だけど高齢者が減れば、自ずと患者は減るわけです。

さらに人口減は医師の偏在を招き入れ、医療格差を生じることになります。医師教育についていえば、2024年の医学部定員は9400人余り、実に18歳人口の116人に1人が医学部に進学することになります。僕らの頃は4000人でしたから現在では単純に倍の医師養成が行われています。医師養成数と医師の偏在と言うと一見矛盾があるように思われますが、現在の医療は専門科別細分化されているため要求される医療に対して一人ずつの医師が割り当てられるとしたら、医師数は絶対的に足りないってことになってきます。と言いながら今年入学した学生たちが医師となって活躍する頃、2030年(5年後)には患者と医師数のバランスが取れて以後は医師余りとなることが予測されています。医学部教育もこの辺りを念頭に医師教育を考えていくことが必要となるでしょう。

さて、医療機関にとっては早急に経営方針の在り方、方針を考えておくことが必要になります。他業種なら出店調整、M&Aなどが考えられます。地方のインフラで大切な公共的バス路線さえ中止されている状況ですから医療機関も対策を考えていくことです。

公立病院でさえ、下支えする自治体の税収が減少し予算不足に加えて患者不足による経営難に陥るようになります。もうなりふり構わず周囲の医療機関と競合するような状況になるのでしょうか。

僕たちはいわば医師不足の時代でしたけれど誰も医師不足なんて思っていなかったのは、当時の医療のあり方の問題で、産婦人科でも一人医長(一人だけで担当科の診療を行う)の医師は24時間365日働くのが普通でした。

現在の医師不足とされている状況は様々な要因が複雑に絡み合っているわけですから、一概にこうしたら良いって対策があるわけではありませんが、地方の医師不足、医師の偏在の解消にはある程度の強制力を持って医師の適正配置を図っていかなければならないと、中央には、そうでなければ社会の変化に追いついていけないというような考えもあることは事実でしょう。そのうちの一つは、病院の院長になるためには1年以上の地方での勤務を義務づけるなどの意見が出て来ています。もう何年も前のことですが、総合病院に勤務している中堅医師も交えた飲み会でのこと、殆どが日本でトップレベルの医学部を卒業された医師たちですが、僕達病院でトップになる気はありません。セカンドの位置の方が収入も居心地も良いですよって言っていたから、この政策も将来的にどうかなぁって思ってしまいます。

今後は医療機関においても人口減少に伴う働き手の減少により医療崩壊の不安があるなか、各医療機関で如何に未来デザインを描けるかに関わってくると思います。

人口減少は税収も減ることは明らかであり、その結果社会保障費も減るので医療を基盤とした社会の底が抜けるとさえ話されています。今後どうしたら良いのかについて日本のような国は現在どこにもありません。従って参考にできる国や政策がないわけです。このままで日本の医療体制が崩壊し、新たな芽を育て上げていくことを国民とともに考えるようになるのでしょうか。

元々医療政策は国によって異なるので、日本のように国民皆保険で医療は国の支払基金によって統制されている国での医療機関についていえば、医療のバランスをとるために政策を持って強制的に行うか自然淘汰に任せるかとなるのです。現在は、その両者に委ねているみたいな状況ですね。

一般的にと言うか異業種的には、外国人の就業に期待する部分もありますが、外国人は既に各国と奪い合いになっている状況ですし、医療業界としても従業員は他業種と奪い合いですし、特に医療分野では資格面などで言葉の問題が生じる事もあります。

産婦人科医についていえば、安全な出産を提供するシステムを発展させ維持することは大前提ですが、個々には自身の対応可能な診療科を増やす戦略を考えていくことが重要視されるでしょうとされていました。

これから100年先の日本がどうなっていくのかなぁと考えるよりこの先の5年、10年先がどうなっていくのか近未来と言うより近々未来の話ですね。

でも、何処かで何時の時点かで人口維持に転じる可能性を予感するのです。

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